人目につかないように何かを隠すのは、少し興奮するものですね。
「人に知られたくない」「見られたらどうしよう」という秘密を抱えているだけで
なんだかアンニュイな気分になる。
人に見られたら仕方ないけど、できれば見せたくないものは、
都合よく何かで隠しておきたいものです。
当然のように外に出るときは毎日マスクで顔を覆います。
誰もが着けているから全く怪しまれたりはしない。
顔を隠すにはとても都合がいいこのごろ。
見られたら恥ずかしいものありますよね。
自分は10日間剃らなかった髭。
隠したかったのは怠慢なところ。
髭剃りは未だに面倒。
仕事上も当然「マスクは常」なので
「どうせ見えないでしょ」という甘えもある。
そして10日で出来上がったのは
白髪まじりの無精ひげのオジサン。
鏡に映る見慣れない自分の顔に「老けたなぁ・・・」と
つぶやいて年齢を実感として再確認する。
しかし『自分の髭ずらも満更でもない』。
そう言い聞かせるのは自己愛からか。
そんな髭の頃、休日に20年行きつけの「きしめん屋」へ
お気に入りの「五目きしめん定食」を食べに行く。
いつもの休日の夕飯時。
この店は地元の家族連れの常連さんで賑わう、二世代にわたる常連もいるだろう。
店というより家でご飯を食べるような、「家族団らん」な雰囲気の店だ。
手打ちのツルツルきしめんと出汁のきいた湯気の立つツユの風味がたまらない。
お店のご主人も❝オジサン❞だったが、すっかり❝お爺さん❞になってしまった。
自分は❝お爺さん❞のちょっと手前だろうか。
いつものように「少年マガジン」を読みながら料理を待っていると
裏口から顔を出し配膳中のおばちゃんにと声をかけた。
仕入れ先の業者だろうか、「いつもお世話になります」
『皆さんご存知の』的な声のかけ方だ。
しかし、間をあけておばちゃんは「どちら様でした?」と返す。
男はキョトンとして困惑しているようだ。
『いつも会ってんのになぜわからないんだろう』と
マスクを下にずらして濃い髭面の顔をあらわにした。
ところがおばちゃん『あんた誰?』といった感じで男を見つめ固まってしまった。
男の髭面の笑顔も固まり、その目は、『どうかわかってほしい』と
懇願している。
そのやり取りを髭面の男に『名を名乗れ』と念を送りつつ
おばちゃんの後ろから見ていたのだが、やっと男は『●●酒店ですぅ』と
少しひざを曲げて低姿勢でオカマっぽい口調で告げた。
そこでようやくおばちゃん、合点がいったとパチッと手をたたき
「あ~タクちゃん!髭はやしてるから誰だかわかんなかったがね~!」
と笑いだす。
こちらもホッとした。
タクちゃんは言う。
「最近はずーっとマスクしてるからひげ剃るの面倒だし見えないからいいかなって」
・・・自分と同じだ。
続けて聞き耳を立てると、この店の担当のタクちゃんの親父さんが
別の配達で来れなかったらしい。
そのかわりタクちゃんの髭面は、おばちゃんの脳裏に刻まれたことだろう。
その夜、髭をきれいに剃った。
タクちゃんの件で、考え直しいつもの顔に戻すことにした。
人付き合いの中で❝いつもの顔❞でいることも
相手に余計な気を使わせないのがいいのだ。
不変であることは、退屈だが大半のの人達には安心を与える。
個人差はあるが、特に高齢な方たちには『いつもと同じ』安心が一番である。
それと、髭がマスクにあたってモゾモゾしてくすぐったかったことも
ひとつの理由だ。
それにしてもシックSchickの3枚刃は良く剃れる、
スッキリしてヒリヒリしない。
これで安心だ。
自分はもう少し変化を求めていたい。
あと数年と思うが、マスクなしで毎日暮らせるようになったら
髭面のおじさんに挑戦しよう。
貴重なお時間、お付き合いいただき
ありがとうございます。